peaceなひとびと

フラッグを掲げる人々を訪ね、暮らしぶりを拝見し、お話を伺います。

渡辺民さんは京都市左京区大原でご主人の雄人さんと共に有機農業のつくだ農園を営んでいます。民さんのお宅は、3歳のネリちゃん、1歳5ヶ月のそよちゃん、犬のふくちゃん、猫のかをちゃんの4人と2匹家族。

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entotsu
house

大原の広い空の下に佇む民さんのご自宅は、ウッドボイラー、薪ストーブ、空気の循環する空間等、工夫の詰まった建物。

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woodboiler

玄関にお邪魔し、まず目に入ってくるのは食品加工室。ここでは野菜のジャムや焼き菓子等が生み出されます。ご自宅の建具の多くは古道具で見つけたというこだわりのもの。凛々しく収まるその姿に惚れ惚れしつつ、奥へと案内していただきました。

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私が初めて食べたつくだ農園のお野菜は、2012年に京都に来て間もない頃、食通の友人に教えてもらったやおやさんに並んでいた人参でした。色が濃く引き締まっていて、ずっしりと落ち着いた顔つき。低い声で「食べてみな」と語りかけてくるようでした。

帰ってから早速、生でいただいてみて感激。豊かな香りが口いっぱいに広がり、側にいた子供たちとつまみ食いが止まらなかったのです。生でおいし、蒸しても炒めてもそれぞれ違った甘みがにじみ出てくる人参。

つくだ農園では、てっきりベテランの頑固おじさんが畑を耕していると思っていました。実際は若いお二人が営んでいると知って軽い衝撃を受けたのをよく覚えています。

民さんと雄人さんはどのようにして農業に出会ったのか、伺ってみました。

立命館大学在学中の民さんは、文化政策やアート活動に関心を寄せるのと平行し、農業にも興味を持ち、美山の田畑に通う日々を過ごしていました。

同じ頃、文化政策を研究する大学院生でアウトドア好きと、農業とは無縁だった雄人さんの通う同志社大学で、大原の農園の中で社会学を勉強できる施設が設立されました。

その場の住み込みの管理人に抜擢された雄人さんと共に、目の前にあった畑を耕すようになったのが「つくだ農園」の原点。

初めて触った土は、30年もほったらかしにされていた休耕地でした。長い歳月をかけて培われた地力の溜まった土地で育った野菜はどれも上出来で、その野菜を大原の朝市に出す機会に恵まれ、販売を経験。作っては売るという暮らしが続いていく中で、大きな出会いが訪れます。

当時、太秦で400年という歴史を持つ農家であり、20年有機農業を続けている長澤源一さんに雄人さんが巡り会い、師事することになりました。

文化政策という分野から、農山村と農業へ関心が移った雄人さん。同志社の大学院において農業の研究をしながら、長澤さんの畑で知と術を深めていきました。長澤さんの元で過ごした当時を振り返ると、非常に厳しい教えを通じて、農業を実践していけるという確信を持てる時間だったと言います。

思えば導かれるように農家としての時間を育まれてきたような印象。民さんは、農業を選択した理由を「幼少期に観てきた、田舎での祖母の暮らしぶりのおかげ」と言います。農業を営み、畑で元気に働く民さんのおばあ様。その手は、おまんじゅう、うどん、おもち、とうふ、こんにゃく等、なんでも手作りのものを食べさせてくれる魔法のような手でした。「手作りのものが一番美味しくて、一番尊いということを教えてくれたのは、おばあちゃんだったと思う。薪でお風呂を沸かしたり、食べるものを作るのも全て一からやっていた祖母の暮らし。全てを同じようにはできないけれど、土に向かって、できる限りを手作りして、生き物を大切にして、家族を大切にして、そういったことを子供たちに引き継ぎ、感じて欲しい」と民さん。

お二人を専業農家の暮らしへと導いたもう1つの要因は、他ならぬお二人の決意でした。関心を持ち続けていたアートや、都会的な暮らしから遠ざかる決意。大原で暮らしていくこと。学び続ける日々の中で、学童がなかった当時に放課後の子供たちの預かり保育を実践するなどといった行動力が、大原に住む人々に浸透し地域との結びつきをも強めていったのでした。

あれから10年。今年1月で大原の朝市を引退。「値段交渉等も含め非常に勉強になった朝市の場を、次の世代へ」という考えは、惜しみなく販路の間口を広げる手助けをしてくれた長澤さんの教えを受け継がれているのです。

民さんは、美味しい野菜を作ることは技術だとおっしゃいました。まずは土の状態を良くすることで、野菜が育つ環境を整える。熟考の上、ベストなタイミングで入れる肥料。
「知識と経験を合わせた技術のあるつくだ農園の農業は、職人の世界とかなり共通している。
食べる人の求めるものを確かに作ること、そして時にはそれ以上を提供することで感動してもらうことが喜びです」と民さん。

民さんのお話を伺い感じていたのは、一本筋の通った社会や地域との関わりの姿勢と、物事の先を見る目。土に触れ、地域の方々と関わり合い、農業の未来を思い続ける健全な暮らしぶりは、着実に歩んでいくことで得られる絶大な安心感を伝えてくださっているようでした。

自分の子供たちが、もしかしたら戦争に行く時代がやってくるかもしれないと思うとやりきれない。しかし民さんはこうおっしゃいます。「危機感はあれど、不安感はない」と。
大原の田畑を包み込む美しい空気を胸いっぱいに吸い込み、土、天候、自然との対話から生まれる実りある暮らしが、力強く豊かな感覚を生んでらっしゃるようでした。

 

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「安保法案、原発再稼動。何かしたいけれどデモなどの行動にも中々参加できなかった時に思いを表現するツールとしての「peace flag」はとても良いと思いました」と民さん。

 

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つくだ農園 基本情報

つくだ農園では、京野菜・洋野菜合わせて、年間役40種類を作付けしている。
京野菜の例:万願寺唐辛子、赤万願寺唐辛子、鷹ヶ峰唐辛子、丸ナス、海老芋、九条ネギ、壬生菜、金時人参、聖護院大根、赤しそ ほか
洋野菜の例:各種ズッキーニ、モロッコインゲン、バターナッツ、バジル、紫人参、黄色人参、紅芯大根、黒大根、リーキ、赤リアス、わさび菜 ほか

〒601-1234 京都市左京区大原小出石町105
TEL&FAX  075-744-3866
http://www.villagetrust-tsukudafarm.com/tsukudanouen/home.html